2021年下半期よく聴いた曲

去年の曲の振り返りです。

上半期聴いた曲の記事は以前書いたので、今回は下半期編です。

 

01.老人と海(2021) - ヨルシカ

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ダントツでよく聴いた曲で、今年のベストソングです。

ヘミングウェイの小説「老人と海」をテーマにしたこの曲。個人的にはあの物語の後日談という風に受け止めました。

極めて普遍的なバンドサウンドなのに、誰もたどり着いてない音楽の境地へ行ってしまったような凄味があります。南の国の静かな海の朝を思わせるイントロの空気感や、小説から引用された最後の歌詞のフレーズが瑞々しくて、何回も飽きずに聴いています。

ヨルシカはこの後に出した、「月に吠える」も物凄い名曲でした。

 

02.Lush(2017) - Four Tet

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イギリスのエレクトロニカミュージシャン、Four Tetのアルバム「New Energy」の収録曲。

スティールパンやハンドパンのような柔らかい音色が繰り出すフレーズが非常に心地良いです。夜明け、真昼、日没、深夜、いつ聴いてもそれぞれしっくりきます。

 

03.The Ephemeral Bluebell(2008) - Bibio

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イギリスのフォークトロニカミュージシャン、Bibioの代表曲。

この曲は昔から大好きな曲で、今年も沢山聴きました。

ギターの逆再生から入る独特なイントロが本当に素晴らしい一曲です。

この曲からは強烈な郷愁を感じるんですが、Youtubeのコメント欄を見ても国や人種を問わず皆そう感じるようですね。

 

04.Stay With Me(2014) - Sam Smith

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数々の賞を総なめにした、世界的大ヒット曲。恐らく100年後にはスタンダートナンバーになっているでしょう。

セックスフレンドの人に思いを募らせてしまったという俗なテーマなんですが、それを非常に真摯な歌詞とメロディーで歌い上げていて、見事な音楽になってます。音楽の詩の力ってこういうことなんだなって聴くたびに痛感します。

この曲は、イントロのドラムの質感も非常に素晴らしいです。

 

05.春嵐(2019) - john

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シンガーソングライター活動も始めたTOOBOEの、2019年のボカロヒット曲。

吹っ切れない片想いなのか、アイドルなどの「推し」への偏愛か。少し歪んだ恋愛がテーマのこの曲。早いテンポで繰り広げられるリズミカルなメロディーは、まさに春の嵐のようです。

サンプリング音声の活用の仕方や独特な発声のさせ方など、曲の中毒性を作り上げているギミックがいくつもあって楽しい1曲です。

 

06.パーフェクトおねいさん(2021) - きゃりーぱみゅぱみゅ

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きゃりーぱみゅぱみゅ最新アルバム「キャンディーレーサー」収録曲。

このアルバムは、ガバのサウンドが前面に出た前半から、人懐っこいキャッチーなメロディーが際立つ可愛い曲が続く中盤、更に80年代風ポップスや渋谷系サウンドへ回帰していく終盤と多種多様な音が滑らかに展開していく凄い面白い構成です。

その中でも特に好きなのがこの曲。2番の歌詞

「僕を進ませるのはきっとたぶん劣等感 できるって信じてるから感じることでしょ」というフレーズは聞いた瞬間に泣いてしまいました。

 

07.根も葉もRumor(2021) - AKB48

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初めてAKBでハマった曲です。

高校のダンス大会の全国常連校の顧問が振付を担当したという異例の楽曲。

激しいロックダンスを鮮やかに踊りきるパフォーマンスと、IZ*ONEから帰ってきた本田仁美の復帰作ということが話題となり、Tiktokでもバズってましたね。

四つ打ちのビートに乗せた、イケイケなブラスバンドとベースがひたすらに格好良い1曲です。

 

08.Chopstick(2021) - NiziU

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恐らく今のPopsシーンで最も挑戦的だと思います。

イギリスのスタンダートナンバー「Chopsticks」をそのままサンプリングした楽曲。この曲は二本の指だけで弾けるピアノ曲として有名で、その二本の指を箸に見立てたことが楽曲名の由来となってます。

NiziUの楽曲ではこのメロディーをそのままイントロで引用し、曲全体でこのフレーズを散りばめています。タイトルが「Chopstick」と単数形、つまり一本だけの箸であるのがポイントで、「君がいない私じゃ意味がない」というメッセージへの伏線となっています。

古典的なスタンダートナンバーをこういう風に再解釈し、ポップスのど真ん中で勝負するという姿勢が格好良くて、一発で好きになった曲です。

 

09.きゅうくらりん(2021) - いよわ

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2021年のボカロを代表するヒット曲。最近猛烈に聴いています。

音ゲー曲や既存のボカロ曲、渋谷系サウンドなど色んな音楽の要素を取り込んだ、唯一無二の曲展開が鮮やかです。

サビのフレーズ、「空っぽが埋まらないこと全部ばれてたらどうしよう」「幸せの明日を願うけど底なしの孤独をどうしよう」に掴まれました。これだけ早いテンポなのに、印象的なフレーズがぽっと浮かんでくる構成になっているのが素晴らしいです。

 

10.魔法の絨毯(2018) - 川崎鷹也

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2021年を代表するヒット曲。

「お金もないし力もないし地位も名誉もないけど君を守りたい」というフレーズは、歌詞だけ見たら、正直何にも魅力がない男としか思えないんですが、これが川崎鷹也の歌声であのメロディーに乗って歌うと途端に物凄い説得力が出てくるのがずるい。音楽の詩の力ってこういうことなんだなって改めて痛感した1曲です。

 

11.なんでもないよ、 - マカロニえんぴつ

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先月以降今ヒットを飛ばしている最中のこの曲。

髭男の「I LOVE...」と同様に、主にエレクトロミュージックで使うような電子音を、バンド楽曲へ大胆に取り入れた曲です。元々電子音楽が自分の根っこにあるので、こういうタイプの曲をJPOPのど真ん中でやっている人が凄い好きです。

back numberの「クリスマスソング」などを彷彿させる、滾る思いを上手く言葉で表せないことを歌ったラブソングです。このじんわりと暖かくなるような歌詞の内容も、リアリティーがあります。

 

オンラインコスキンまとめ②

オンラインコスキンお疲れさまでした。

まとめ①では、他のコンフントについてまとめたので、この記事では自分が参加したコンフントについての一人語りをします。

 

今回参加したのはNo.9「tapaTunes」、No.27「はるかぜ音楽隊」、No.136「Remanso」の3つです。今回3グループの共通点として

・すべての録音を各々のスマートフォンで行う

・音源編集を自分で行う

がありました。録音をスマホで行うとどうしても音質が悪くなるし、録音者のちょっとした不注意ですぐホワイトノイズが入るし、大変な面が沢山あります。

まあ何とかしましたが、やっぱり良い録音環境で録ったほうが、編集時にやれることが格段に多くなるなと実感しました。

 

No.9 tapaTunes

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六匹のマグロによるコンフントです。自分はカジキマグロとしてチャランゴで参加しています。元々は2月にリモートでこの曲を演奏していますが、今回初めてメンバーで顔合わせして、演奏し直しました。尚、都合により一人欠席してます。ドラムは、リモート時に用いた打ち込み音を使っています。

打ち込みにあわせて演奏するの初めてでしたが、結構難しいですね。テンポ合わせる練習には使えそうです。あとかなり低音強めのドラムなんですが、生演奏で合わせる時は、温かみのあるドラム音源に変えたほうが馴染むなあと思いました。若干音割れしちゃってるのも気になるので今更ですがちょっと直したいですね。

tapaTunesは演奏が確かな方々、自分にはない才能を持った方々ばかりで凄く楽しいです。誘って頂いて本当に良かったと思います。

 

 リモート演奏時のはこちら

    Arigatoba/ANATA BOLIVIA(ritmo:tobas) - YouTube

 

No.27 はるかぜ音楽隊

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オリジナル曲その1。

はるかぜは結成以後、様々なアクシデントからまともに活動しておらず、今後も演奏する機会が無い為、1回は何かやりたいと思ってコスキンに参加しました。対面で会うことも難しく、楽曲の練習もまともに出来ない為、遠隔演奏かつ曲練習をしなくても出来る楽曲にしようと思いました。結果、練習の必要すらないような15秒程度の1フレーズを録音してもらい、それらを組み合わせるという手法で作りました。このやり方自体は、去年のコスキンでRemansoが参加した「Cuando Estoy Triste」でも使っています。

今回は1フレーズという特性をもっと大胆に生かしたかったので、フレーズ自体をあえてバラバラに組み合わせた構成にしています。楽曲作成時に参考にしたのは、現代音楽の巨匠スティーブ・ライヒの「マレット楽器、声とオルガンのための音楽」です。

彼の音楽は、異なる短い1フレーズを同時に再生し、それを何十分と繰り返していくのが特徴です。異なるフレーズが複雑に絡み合い、それらがゆっくりと1つの巨大な生き物となって自由自在に動き出していくような不思議な音楽です。

彼の音楽の手法を、6/8のカルナバルっぽいビートに合わせて再現しようと思いました。この曲の核となるメロディーは、冒頭から登場する6/4拍子のピアノのフレーズです。楽曲制作は、これに6/8の様々なフレーズを重ねるところからスタートしました。ただ、普通に重ねていくだけだと彼の音楽のような独特の陶酔感は生まれないので、あえて重ねるタイミングを全フレーズでバラバラにしています。そうすることで、全てのパートの拍子がそれぞれで合わなくなり、独特のリズムが生まれると思いました。更に、ある一部分だけメロディーを4拍子に変えたりと、曲に強制的な変化をつくることで、不思議な感じにさせています。

最終的に彼の音楽のような、唯一無二の陶酔感は生み出せなかったですね。スティーブ・ライヒはやっぱり凄い。

また、この曲を作ってた時はブライアン・イーノのMusic For Airportを頻繁に聴いていたので、アンビエントのような聴き流せる音楽も若干イメージしています。

動画編集はメンバーの一人が行ってくれました。有難うございます。

 

No.136 Remanso

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こちらも、演奏することは当分もう無いコンフントです。楽器が腐ってしまったメンバーもいるので、「囁き」とか「口笛」といった体一つで出せる楽器を使おうという案は、最初期のころからありました。

楽曲作り始めたのが7月初旬だったので、サマーソングを作ろうと思いました。ちょうどこの頃、コロナ以降盆踊りがなくなってて寂しいなあと思ってて、そこからサマーソング→盆踊り→ノスタルジックみたいな連想をしていって、「フォルクローレと盆踊りをかけあわせたら面白そうだな」という発想がこの曲の核になりました。

最初につくったメロディーが、「泣きべそが夜祭を~」の部分で、このメロディーがカポラルに合いそうだったのでカポラルのリズムにしました。ただ、このメロディーだけだと印象が薄くなりそうだったので、新たに「今際の果ての~」のメロディーを追加しています。メロディーは盆踊りらしさを出すために、都節音階とニロ抜き短音階のみを使っています。

制作時、まず取り掛かったのが打楽器によるカポラルのリズム作成です。今回、画面に出ている6パート以外の音はすべて打ち込みで作っています(但しサンポーニャは、彼の音を以前サンプリングしたものを音源化して、打ち込みしています)。そのうち打楽器は、Native Instrumentsソフトシンセサイザー、CubaとEast Asiaをメインに使いました。ギロの音など、打ち込みにしては結構リアルなノリが出来たんじゃないかと自画自賛してます。それから、祭囃子っぽさを出すために鉦の音なんかも入れています。

このリズムに、三味線や篳篥、琴、笙などの日本の民族楽器と、インドのBansuriという笛を重ねています。お祭りの騒がしさを出したかったので、あえてメロディーのリズムはカポラルでなくシャッフルにしています。このリズムはアウトロの演説への伏線にもなっていますね。余談ですが、三味線のフレーズも結構リアルに出来たんじゃないかと自画自賛しています。

コードとベースに関してはものすごくシンプルです。これは僕がこれらを組み立てるのが苦手っていうのもあるんですが、そんなに複雑にしなくても良いかなとも思ったからです。コードはFm→Cm→Fmの繰り返し(ちなみにKomorebiはGコード1つのみです)、ベースも1フレーズをほぼ繰り返すのみです。楽曲に迫力を出すために、ベースの音は、50khz以下のクラブミュージックでしか使わないような超低音を用いてます。

歌詞は、メロディーが出来上がった時点で揃えたい押韻がいくつか出てきたので、とにかくそれを揃えることを考えてました。Twitter上で、「結んで開いて羅刹と骸を彷彿させる、一昔前のボカロっぽさを感じる」というコメントも頂きましたが、普段自分はボカロばっかり聴いてるので、こういうところで影響を受けた音楽が無意識に現れるのかもしれないですね。また、演説は元々入れる予定なかったんですが、アウトロつくってる最中で喋りが欲しくなったので急遽追加しました。

この曲は特に参考にした曲はないですが、おそらくここらへんの影響が無意識に現れてるのかなと思う楽曲は、米津玄師「Flamingo」、富山民謡「コキリコ節」、秋田民謡「ドンパン節」、わらべうた「通りゃんせ」「さくらさくら」、童謡「あのこはたあれ」辺りです。それから、もう一度カポラルのリズムを確認するためにAmaruの「Mi Morena」なども聴いてました。

TwitterとかYoutubeのコメントで反応を見ていましたが、「コスキンで初めての低音域が使われている」「コロナ禍を反映したような歌詞」「歌詞が世知辛いのにボーカルがかわいい」「カポラルと日本民謡の融合」など、自分が意図した部分を感じ取ってくれた方々が沢山居て嬉しかったです。

 

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以上3コンフントの振り返りでした。

ちなみに、「Komorebi」も「Okame y Hyottoko」もコスキン参加提出時には、全く曲を作っていなかったので仮タイトルでつけた名前でした。結局それをそのまま使っちゃっています。

 

 

 

 

 

オンラインコスキン まとめ①

オンラインコスキンお疲れさまでした。

ひたすら見るだけで終わってしまったので、特に魅力的だったコンフントをまとめ書きします。1回まとめて後で見返したいコンフント沢山あるんですが、動画リンク載せすぎると重くなるのでかなり絞っています。また、全部は見れてないので見逃しているコンフントも幾つかあります。

 

No.21 WATIWATI

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ブラジル風バッハ第4番より「アリア」をピアノで演奏されたコンフントです。

この楽曲を全く知らなかったのですが、フォルクローレにこんなアプローチの仕方もあるのかと驚きました(ブラジルがフォルクに入るのかはよく分からないですが)。

調べてみたら作曲者はヴィラ=ロボスというブラジルの作曲家で、バッハの作曲形式とブラジルの民俗音楽の融合をテーマに作られた楽曲のようです。

最初にメインテーマが提示された後、中盤から332のラテンアメリカっぽいリズムになり、それが3連符へと変わり再びメインテーマに戻ってくるという曲構成のうち、おそらく中盤がブラジル風ということなんでしょう。

オンラインコスキンは、フォルクローレを軸足にした未知の音楽を知れるのが面白いですね。

 

No.25 フェルナンド・ヒメネス

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学生卒業するとただでさえフォルクから離れがちになるのに、昨今のコロナ禍で猶更そうなってしまいました。現地のプロによる「これぞフォルクローレ」っていう演奏をものすごく久々に聴きました。忘れかけていた音を思い出したような気がします。

 

No.54 Ticona Cesar

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「コンドルを飛んでいく」を演奏されたコンフントです。最も有名なフォルクローレであるが故にかえってあまり演奏されなかったり、アレンジを加えたバージョンで演奏されることが多いですが、この演奏は最もスタンダードな曲構成です。

コロナ禍の影響か最近は駅前でのフォルクローレ奏者も見なくなりましたが、あの音楽を思い出させてくれるような、懐かしさを覚える演奏です。

 

No.71 TOYO草薙

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ヤマンバが来る ~三枚のお札編」をこのコスキンで初めて聴きました。細かなフォールが入ったケーナや、要所に不穏なアルペジオの入るチャランゴから、どこかどろどろとした山姥の恐ろしさを感じさせます。しかし曲自体は、爽やかなカルナバルのビートが最後まで駆け巡る、明るい楽曲であるのがタイトルに反して面白いですね。

 

No.84 オカピスピリタス

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演奏も含めて全ての要素をコスキンへのオマージュとして仕上げた怪作。「オンラインコスキンならでは」の楽しさを最も体現しているコンフントの一つだと思います。

映像の作り方、音楽のクロスフェードの仕方、演奏、細かな技術が練られていて凄い。

 

No.87 西田フレンズ

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ここ1年でオリジナル楽曲を多数発表している西田フレンズの新曲。作曲者のShuさんは既にワイニョ、カルナバル、チュントゥンキの楽曲を作っているので、次は何が来るだろうと思っていたらクエカでした。

切なく格好良いメロディーと、温かみのあるサウンドの音処理が印象的でした。

 

No.97(追記) SUNAYAN

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まずあとから聴き返そうと思っていたのに、書くのを忘れてしまってました。多様な弦楽器、ケーナサンポーニャ、そしてオクタパットによる、サンファニートのソロ演奏。サンファニート大好きなので、こんな良質な演奏を聴くと猶更コスキンに行きたくなります。オクタパット、ギターの低音の主張が上品にちゃんと出ていて、聴いててとても気持ち良いです。ずっと聴いていたい。

 

No.100 正木良久

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フォルクローレの名曲「Camino de llamas」のエレキギターアレンジ。

どうしてもケーナによる一般的な曲編成のイメージが強いので、結構衝撃でしたが物凄く良かったです。低地の乾いた大地を、夕焼の逆光の中で誰かが一人で歩いている映像が浮かびました。

 

No.105 ルイス・サルトール

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Los Tres Amigosのチャランギストによる花祭り。冒頭の浮遊感あるコードアレンジや、フェードアウトを再現したようなアウトロの弾き方など、勉強になる奏法が沢山ありました。一流のプロは、スタンダートナンバーを今まで聴いたことのなかった曲のように聴かせられるから凄いですね。

 

No.138(追記)  やまもとひろ

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こちらも終わったらすぐ見返そうと思っていたのに、書くのを忘れていました。こういうザ・ワイニョな音楽にしか持っていない独特の情感が物凄く好きです。

 

No.164 東京リャマ計画

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ピアノ・チャランゴサンポーニャ(ケーナ)・コンサーティーナのみによるシンプルな曲編成なのに、豊かな響きを奏でる楽曲です。個人的に曲を作るときは、音を結構詰め込む傾向にあるのですが、音の引き算についていろんなジャンルから学ばないといけないなと思いました。

 

No.169 Canto Hoy Va La Qui (カントーイバラキ)

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映像も演奏もとにかく楽しくなれる動画です。おそらく録音環境はそんなに良くないような気がするんですが、凄く聴きやすいミックスです。コロナが収束したらコスキンで生で見たい。

 

No.173 ルシア塩満トリオ

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こちらはさらにシンプルな、アルパ、サンポーニャ、ギターのみの編成。

とにかく凄すぎて言葉が出ないです...。

 

No.179 JOSE+YOSHIO

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オンラインコスキン恒例となった、即興演奏コンフント。前衛的だけれど、フォルクローレ音楽が本来持っている、アンデス地方特有の乾いた空気感をどこか感じさせる楽曲です。

日本の伝統音楽を思わせるYOSHIOさんのケーナと、フォルクローレギターの魂を感じさせるJOSEさんのギターの素敵な音の化学反応が見事でした。

衝撃だったのが、YOSHIOさんのケーナを前撮りして、それにJOSEさんがギター伴奏をつけたということ。とんでもないアレンジ力と演奏力...。

 

No.181 MAYA

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めっちゃくちゃ良いLlaqui Runaが無料で聴けてしまう時代。

 

 

 

2021上半期よく聴いた曲

今年も早半年が終わるので、よく聴いた曲を振り返ります。

 

01.幽栖 - 悒うつぼ(2020)

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今年最も聴いた曲の一つです。悒うつぼはYoutube発のシンガーソングライターです。

逆再生を駆使したイントロのコードに、不思議な気持ちにさせられます。もう忘れてしまっていた幼少期の頃の感覚が、呼び起こされるような感じがします。

自分たちが生きていく中で、絶えず自分自身の考え方やアイデンティティ、好むものや価値観は変わっていきます。その中でいつの間にか見失ってしまった、自分の中にある本質的な何かに、この曲は優しくスポットライトを当ててくれます。特に、サビに出てくる「置いてかないでよ頭の隅の国の誰かを」というフレーズが、そうさせてくれるのだと思います。

また、この曲には沢山の環境音が使われており、それらを再構築することで独特のリズムを生み出しています。こういった手法は特にエレクトロニカで用いられますが、このリズムの作り方が抜群に上手いです。それも含めて、作詞・作曲・編曲・歌唱のすべてを一人で行っている悒うつぼは、間違いなく次世代の音楽を牽引する天才だと思います。

 

02.ハッピーになれよ - 瑛人(2021)

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今年の元日に発売された1stアルバム「すっからかん」のリード曲。「香水」が大ブームを巻き起こした瑛人ですが、香水も含めてこのミュージシャンの一番の魅力は、圧倒的なリアルを見事に音楽の詩に変えてしまうところだと思います。

この曲は、「みんなハッピーになれよ」という明るいフレーズを繰り返すサビや、緩いレゲエ調のリズムなどから能天気なお気楽ソングに一見聴こえますが、イントロの歌いだしから一気にそのイメージが覆されます。瑛人自身の半生を歌ったこの歌詞はかなり重々しいものですが、それをあっけらかんを歌うところにリアルな生活感があります。

そして何といってもこの曲の一番すごいところは、サビの終わりのフレーズ「もういいべ」です。今までのすべての辛かったことや悲しかったことに対する、諦めとも決別とも肯定とも解釈できるこのフレーズこそ、瑛人自身の個性が最も現れた言葉であり、また多くの人が共感する部分だと思います。

瑛人はこの間新曲「掃除」をリリースしたばかりですが、この楽曲も歌詞の展開が非常に巧みです。この曲には、「ハウスダスト」、「生ゴミ」、「赤カビ」といったフレーズが出てきますが、こういった普通歌詞には起こさない言葉を歌詞に入れ込むという手法には、宇多田ヒカルを彷彿させるものがあります。

 

03.春泥棒 - ヨルシカ(2021)

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「ウミユリ海底譚」を筆頭にボカロPとして大ヒットを起こしたn-bunaと、ボーカルsuisによる、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの人気バンド「ヨルシカ」。この曲は今年を代表するヒット曲の一つでもあります。

 

去年のヒット曲「花に亡霊」に続き、春の終わりをテーマにした楽曲です。春の終わりには、儚さだとか切なさといったイメージを多分に含んでいますが、実際には気温が大分高まり日照時間も伸び、チューリップや牡丹といった華やかな花が咲き始め、桜が葉桜へ変わり新緑が芽吹く、生命力があふれる時期でもあります。そんな明るく溌剌した時期だからこそ、春愁といった言いようのない倦怠感が漂うこともあります。

そんな春の終わりという時期が抱える、切なさ、溌剌さ、明るさ、倦怠感といった複雑な感情をどう音で表すのかというのが非常に難しいところですが、このイントロはそれを見事に表現していると思います。

 

04.あとのまつり - ヤマモトガク / Peg(2020)

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「あわよくば君の眷属になりたいな」などでボカロリスナーから注目を集めている、Pegの去年のボカロヒット曲です。音頭のようなリズムが特徴である、夏の終わりを彷彿させる情緒的な楽曲です。

世の中には元々恵まれた人と、そうでない人が居ますが、この楽曲はそうでない人から恵まれた人へ送る強烈な現代風刺となっています。特に2番Aメロのフレーズ、

「弛まぬ努力のお陰かどうにかここまでやって来れました!

 そりゃアンタはお膳立てされてんの 嫌味にしか聞こえないわ」

は現代の様々な差別問題、格差問題から生まれる怒りを見事に表していると思います。MVでは日本屈指の風俗街である、大阪の飛田新地を舞台にした女性が映っていますが、この楽曲はそういった水商売の人に限らず多くの人が共感する、現代の普遍的なメッセージソングであると思います。

 

05.ただ選択があった - フロクロ(2021)

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今年最も衝撃を受けた曲の一つでした。

斬新な方法で毎回曲を生み出すフロクロの、重音テトによるUTAU曲です。

この楽曲は、予め用意されたコードとメロディーを絶えず選択し続けるという手法で作られています(動画を見てもらった方が分かりやすいです)。

手法の斬新さだけに留まらず、この楽曲には、「選択し続ける」という行為の積み重ねこそが人生であるというメッセージ性が込められていると思います。アウトロは、物凄く終止感のないメロディーとコードで突然終わってしますが、この何の前触れもなく終わるところにも人生がどういうものなのかを暗に表している気がします。

テトの無機質な声が生み出す独特な空気感も含めて、ぜひボカロなどのソフトウェアシンガーを普段聴かない人にも、ぜひ聴いてほしい1曲です。

 

06.恋のうた - Yunomi (2020)

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アニメ「トニカクカワイイ」のOP曲。

「インドア系ならトラックメイカー」がTiktokが大ヒットした、今一番アツいエレクトロポップを作るYunomiの楽曲です。

Future Bassに和楽器のエッセンスを加えた情緒的なサウンドは、まさにYunomiにしか生み出せない唯一無二のものです。「新しい風を春は運んでくれるだろう」「花火が消えたら星を夜通し数えよう」といった四季を感じさせるフレーズがありますが、これらの言葉の空気感を、電子音でうまく表現されているところが本当に巧みです。また、歌詞を通してみると、この曲の大きなテーマとして時空を超えた壮大な何かがあるようです(ここらへんはアニメ本編を見ないと詳しく理解できないのかもしれません)。四季を彷彿させるワードを一挙に畳みかけてくるのは、そういった季節だとか時間を超えた非現実的なものを表現したいからなのかもしれません。

この曲の音楽ジャンルのベースはFuture Bass(及びKawaii Future Bass)ですが、このジャンルの特徴としてBPM100を下回る遅めのテンポと、本来のゆったりとしたリズムと倍速でとる非常に速いリズム、両方を駆使して曲にメリハリをつけるというリズムの多様性が挙げられます。この曲でもまさにそれが行われており、前半は8分音符主体のゆったりとしたメロディーですが、後半で一気にリズムが16分主体へと変わり畳みかけていきます。この畳みかけていく歌詞が非常に素晴らしく、聴いていて気持ちの良い韻であり、その内容も情緒的なサウンドを一層彩っています。

歌詞、メロディー、サウンドどれをとっても唯一無二の音楽をつくるYunomiは、間違いなくこれからの日本の音楽を変えていく重要人物だと思います。

 

07.キュートなカノジョ - syudou.feat Kafu(2021)

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ボーカリスト「花譜」の歌声をサンプリングした音声合成ソフト、「Kafu」のデモソングです。初音ミクなどと同じくソフトウェアシンガーですが、Cevio AIというVOCALOIDとは異なるソフトウェアであり、人口知能を用いているのが特徴です。Kafuは他のソフトウェアシンガーと比較してもかなり人間らしい歌声なのが大きな特長ですが、この曲では少し風変りな調声がなされています。

作曲者は「うっせぇわ」で一気に名を知らしめたSyudou。現役ボカロPであり、2019年の「ビターチョコデコレーション」の大ヒットにより、既にボカロシーンでは誰もが知る存在でした。

「浮気」がテーマであるこの曲は、Trapの影響を受けた現代的なサウンドと、昭和歌謡を思わせる古臭いメロディーの掛け合わせが鮮烈です。一見合わない気がするのに、絶妙にマッチしています。

この曲は、今年のボカロシーンの中で最もヒットしている曲の一つです。また邦楽シーン全体で見ても、米津玄師、ヨルシカ、YOASOBIなどのボカロ出身ミュージシャンの大ブームや、「グッバイ宣言」「シル・ヴ・プレジデント」などがTiktok経由で2021年の上半期を代表する大ヒットを記録したりと、ボカロがかつてない勢いで盛り上がっています。邦楽の最先端である今のボカロシーンを象徴する曲として、ぜひ聴いてほしい1曲です。

 

08.ポリゴンウェイヴ - Perfume(2021)

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近年のPerfume含め、最近のエレクトロミュージックはDubstep、Future Bass、Raggaeton、Trapなどの流行を経て、遅めのテンポと、その倍速でとるスピーディーなリズムを両立させたものがトレンドになっています。しかし、今作ではシンプルな4つ打ちの楽曲に回帰しています。またBPMも128と、エレクトロミュージック(そして中田ヤスタカ楽曲)を象徴するテンポです。

どことなくDaft Punkを思わせるイントロや、ノコギリ波のベース、歌い出しのキーボードのコード感、一昔前の中田ヤスタカを思わせる要素が多くどことなく懐かしく感じます。コードがPerfumeの代表曲「ポリリズム」と同じであるのもその要因の一つだと思います。

しかし、3分に満たない短い演奏時間、AメロBメロサビという従来のJPOPとは異なる構成には、今の流行っぽさを感じます。近年のPerfumeは「ナナナナナイロ」「Time Warp」など新たなハイライトとなる名曲を連発しているので、これからの新曲が本当に楽しみです。

 

09.El Horizonte - 西田フレンズ(2021)

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ボリビア、ペルー、アルゼンチンなどの中南米音楽フォルクローレ」を演奏するバンド、西田フレンズの1stアルバム収録曲。この楽曲では、ペルーの音楽形式である「ワイニョ」が用いられています。ワイニョは祭りの時などに踊られる、訛りのある2拍子のリズムが特徴です。

この曲は何といってもイントロから鳴り続けるギターのフレーズが印象的です。夜明けか日没の空を思わせる、切なくも悠久な感じがたまらなく素晴らしいです。ケーナの笛は、奇をてらっていないシンプルなメロディーなのに、とてもキャッチーです。フレーズ終わりの盛り上がりが特に印象的なものになってますが、そこに至るまでのメロディーの起伏が巧みです。

このアルバムには同じ作曲者の曲である「Cuando Solpa el Viento」と「En una Noche de Luna Llena」も収録されていますが、それぞれ長調のカルナバルとチュントゥンキと、同じフォルクローレでありながら異なる音楽形式の楽曲です。フォルクローレは、まだ世界的には認知されていない音楽ジャンルではありますが、優れた音楽の宝庫であると強く感じています。そこにいち早く目をつけているバンドが今後大衆的になっていったら本当に面白いなと思います。

 

10.One Last Kiss - 宇多田ヒカル(2021)

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映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の主題歌として、映画と共に今年を代表するヒット曲です。

2004年のアルバム「ULTRA BLUE」以降の宇多田ヒカルの楽曲は、作詞作曲だけでなく編曲もほぼ彼女一人が担当しており、電子音をベースに曲が構成されているのが大きな特徴です。今回の楽曲もシンセサイザーがメインですが、非常に内向的かつ落ち着いたサウンドです。曇り空のなか温い風が吹いてきたようなイントロは、どことなく碇シンジの人物が持つ倦怠感とか憂鬱感、諦めといったイメージとシンクロする部分があります(とか言っときながらエヴァ見たことないんですが...)。

宇多田ヒカルは唯一無二の歌声や歌詞の斬新さなどが大きな魅力の一つですが、心の微妙な機微を電子音で表現するのがとても上手い方だと思います。今回の楽曲はそんな彼女の近年の作品の集大成でありつつ、次のステップへと続く最初の楽曲であるような気がしました(この次に出されたPINK BLOODがまさにそういう曲でしたね)。

また、この曲のEPに収録された「Beautiful World(Da Capo Version)」も物凄く良かったです。

 

11.踊 - Ado(2021)

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昨年の「うっせぇわ」のデビューの大ヒットにより一躍スターとなったAdoの、今年のヒット曲です。作曲者は「ヒビカセ」や「劣等上等」などで有名なボカロP、Giga。また作詞者はボカロ界の大御所、DECO*27です。

金管楽器の音を駆使したザ・クラブチューンであり、曲の展開の豊富さや、喋り言葉のようなメロディーからはどことなくKPOPの要素も感じます。

とにかくクラブミュージックに特化したサウンドと、歌詞のグルーヴの気持ち良さがたまらない楽曲です。コロナさえなければ日本中のクラブなどでガンガンかけられていたと思いますが、コロナが無かったらこういうインターネット出身のミュージシャンに目が向けられることもなかったのかなと思ってしまいます。

 

12.FIRST - EVERGLOW(2021)

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2019年にデビューしたKPOPグループ「EVERGLOW」の最新曲です。

このグループの楽曲は、メリハリをつけるために、1曲の中で非常に多様なリズムを駆使するのが大きな特徴です。どの曲も非常に格好良いですが、そのリズムを表現する為にはおそらく相当な歌唱テクニックやダンス力が必要です。それをこなせるこのグループはKPOP髄一のパフォーマンスグループだと思います。

この楽曲は、イントロから登場するリフがメインフレーズとして何回も登場します。イロンがこのメロディーをそのまま歌う部分もありますね。曲をよりキャッチーなものにするために、印象的なメインフレーズを作って、それを繰り返す提示するという手法はKPOPで頻繁に見られます。T-ARAのSexy Loveなどに代表されるシンサドンホレンイの楽曲や、EXOのGrowlなどがその代表例です。

しかし、この楽曲ではメインフレーズがあまりメインとして主張してきません。歌い出しの前やサビ、1番の終わりといった曲の起承転結にかかわる部分には出てきますが、それ以上にシヒョンの歌うメロディーの方がパッと聴いて印象的です。こういった作り方は今までのKPOPにはあまり見られなかった傾向なので、結構新鮮でした。

EVERGLOWは他のKPOPとは異なるオリジナリティ溢れる音楽を作り続けているので、今後も楽しみなグループです。

 

13.Load Of The Dance - Clark (2001)

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Clarkはイギリス出身のエレクトロニカのミュージシャンであり、一時期はポストAphex Twinと呼ばれたIDMの第一人者です。

彼の音楽は中学生の頃から大好きで、この曲も昔から好きだったんですが今年に入ってより一層聴くことが多くなりました。本当にずば抜けて良い曲なんですよね。

メインとなるフレーズは、2音だけで構成された極めてシンプルなメロディーなのに、どことなく懐かしかったりぬくもりがあったり切なかったり、色んな感情を想起させられるサウンドです。様々な電子音を駆使して展開されるリズムも非常に格好良いですし、どこかイギリスの寒い朝追体験させられる感じがします。海外行ったことないけど。

 

14.1/1 - Brian Eno(1978)

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去年今年合わせて、ダントツでよく聴いている音楽です。

ブライアンイーノは、ロックバンド「ロキシーミュージック」の元メンバー。ソロとして発表されたこの曲、およびアルバムは、「空港の為の音楽」という題で、空港で流すBGMとして、飛行機を待つ人々の落ち着かない感じなどを緩和させる目的で作られたそうです。彼の音楽以降、聴くことを目的としない聞き流す音楽、更には空間に調和する為の音楽をテーマにした「アンビエント」という音楽ジャンルが生まれます。

この曲は、アンビエントの1番の代表作であり最高傑作です。本当にどんな時でも心情や空間に調和して聴けて、なおかつ聴いていて退屈しないという唯一無二の楽曲です。僕は最近アンビエントに凄い興味があって、音楽の最終的に行き着く先ってこういうものじゃないのかなって思い始めてるんですが、アンビエントにおいてこの曲以上のものはもう生まれないと感じてるので、自分で新しく傑作を作ろうとなると相当難しいような気がします。


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他にもいろいろあった気がしますが、長くなるのでこのへんで辞めます。ルワンの「カルティカ」とか柊キライの「オートファジー」とか、Ayaseの「シネマ」とかも凄い聴きましたね。

去年はKPOPをよく聴いてましたが、今年はボカロが多いですね。今年はかなりボカロシーン傑作が多い気がしました。

2020年の音楽傑作選

今年よく聴いた音楽のまとめです。

 ・今年に発表された曲

 ・Youtubeに投稿されている曲

 のみに絞っています。

 

 

01.Lil Top / YoungBoy Never Broke Again
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ここ数年の猛烈なブームを経て、音楽の新たなスタンダートとなりつつあるTrap。
Trapとは、808ベースと呼ばれる電子ベース、不規則に細かく鳴るハイハットダウンテンポのキックドラムに乗せて歌う、近年のヒップホップのスタイルです。

そのTrapの最先端を行くNBAは、素人目で聴いても恐ろしいラップスキルの持ち主ですが、彼の紡ぐ鋭い言葉や音楽の中には常に独特の切なさが漂っていると思います。

彼はピアノやギターの逆再生など、エレクトロニカやLo-Fi Hiphopでよく使われるような音を好んで使っているような気がします。ここらへんが、他のTrapと違う独特の切なさを生んでいる要因かもしれません。

この曲は「I'm really Top」と繰り返す旋律に不思議な中毒性があって、この一年最もよく聴いた曲の一つです。

 (余談ですが、RemansoのCuando Estoy TristeはTrapを意識して作った曲だったんですが、その時参考にしたのがこのNBAのLil Topでした。あの曲は参考にした曲や音楽ジャンルが他にもいくつかあります)。

 

 

02.風を食む / ヨルシカ

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VOCALOID出身のn-bunaと、ボーカルsuisによる人気2人組バンド。

今年は「花に亡霊」がヒットしましたが、最新曲の「風を食む」がそれ以上に良い曲でした。

グリッジ音混じりのギターのアルペジオから入るイントロがまず良いですね。外の喧騒をシャットダウンして、一気にこの曲の優しい世界へ引き込まれます。

かなりタイトに絞られたドラムとベース音や、音の定位をころころと行き来するパーカッション、ぶつ切りにされた笛音源など、エレクトロニカの要素が結構組み込まれていると思います。エレクトロニカをここまで積極的に取り入れているのは、日本の著名なバンドの中ではヨルシカぐらいな気がします。

深夜のニュース番組のテーマソングらしく、疲れ切った一日の終わりを優しく慰めてくれるような一曲です。

 

 

03.HIPHOPは歌えない / 瑛人

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今年「香水」で大ヒットした瑛人ですが、実はこの曲の方が香水より後に発表されています。

この曲は、何といっても「HIPHOPは歌えない 俺はリアルじゃないからさ」という1フレーズのインパクトがでかいです。

ヒップホップというと、「いかに上手く韻を踏めるか」だとか、「相手に対していかに早く切り返せるか」という部分がフォーカスされがちですが、最も重要なのは「自分の言葉で歌っているか」という部分なんです。どれだけ実力があったとしても、借り物の言葉では意味を為さないんですね。

この曲のなかで瑛人は、「自分みたいなピース野郎にはリアルなことは歌えない」と心情を吐き出しています。更に、追い打ちをかけるように「現実ばっかを見てたらきっと涙が出るんだ」と歌い上げています。特にこの一文は誰しも共感できる部分があるんじゃないでしょうか。リアルを歌わなければ偽物の表現になってしまいますが、そのリアルを歌うためにはどうしようもない現実をきちんと見なければならないのです。

この曲の面白いところは、「リアルじゃないから俺はヒップホップは歌えない」と歌っているところが既にリアルであり、ヒップホップであるというところです。それを、フォークソングのようなギター一本の伴奏でやっているのがまた愉快だと思います。

瑛人は、簡単な言葉だけを使って他の人が歌わなかった事を救い上げてくる、優れた作詞家だとこの曲を聴いて改めて思いました。

 

 

04.てねてね / 悒うつぼ

 

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ずっと真夜中で良いのに、Ado、美波、秋山黄色など、インターネット出身のミュージシャンの勢いが目覚ましい昨今。彼はその中で今一番の注目株だと思います。

「起きて」「働いて」「食って」「寝て」という動詞4つだけでほぼ構成されたメロディーは、一度聴いたら絶対に忘れません。間を意識したリズム、ダウンテンポだけどノレるという今時のポップスの良いところが凝縮されています。どこか懐かしさを感じるキーボードの音色も心地良いですね。

 

 

 

05.Vroom / Futuristic Swaver

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韓国音楽といえばKPOPアイドルですが、実はそれと同じくらいにHIPHOPが盛んです。(KPOPアイドルで見ても、グループに必ずラップ担当が居たり、世界的グループとなったBTSも元々はヒップホップがメインであったりと、かなりヒップホップ文化が根付いています)。そして、この曲を聴けば韓国HIPHOPのレベルの高さがすぐに分かります。

郷愁感を誘われるTrap曲です。もう手に入らない、経験することのできない、会うことのできない数多くの事を思い出させてくれる不思議な1曲です。

 

 

06.Dolphin / OH MY GIRL

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今年大躍進を果たしたKPOPのなかから、お茶の間人気を博したこの曲をピックアップ。

この曲は元々アルバム収録曲だったのですが、あまりの中毒性にじわじわと人気が高まり、韓国の音楽チャートを逆走し続けロングヒットを記録しました。今年の初めの方に発表された曲ですが、未だにTikTokなどでよく使われているので、KPOP知らない人でも聴いたことがあるかもしれません。

音楽チャートを逆走するだけあって、とにかく吸引力の高い曲です。潤いのあるキックドラムとウッドベースの絡みは自然と体がノってしまうし、ゆったりとしたリズムとトロピカルサウンドの組み合わせはまさに最高です。

また、サビ前の「トムボラルリルキョ」のフレーズの音ハメの良さ、ウイスパー成分多めのボーカルなど、他のKPOPにはない魅力が沢山詰まっています(このグループは歌詞の音ハメが非常に上手い)。

OH MY GIRLは皆キュートだし、この曲自体もダンスも可愛らしいので見落としがちですが、意外と音楽自体はかなりベースミュージック寄りなのが面白いですね。ほぼ、ベースとドラムのみで音の骨格が形成されているので、意外と硬派なサウンドなのも良いギャップになってます。

 

 

07.Dynamite / BTS

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今年のKPOPといえば、まさにこの曲。

韓国人として初の全米ビルボードチャート1位、更にグローバルチャート1位を獲得し大きな話題となりました。日本でもチャートを席巻し、TikTokなどでも沢山使われています。

この曲がこんなに大きな話題となったのは勿論BTSの人気もありますが、それと同じくらいに楽曲の良さが影響していると思います。全編英語の歌詞は、コロナ禍の中にいる私たちをさり気なく励ましてくれる明るい内容で、気取りすぎていないシンプルなファンクサウンドとメロディーはいつ聴いてもハッピーになれます。

この曲は、KPOPというジャンルもファンクサウンドもコロナの出来事も忘れ去られた遠い未来になっても、世界のどこかで歌われているような普遍的なナンバーになるのではないかと、ひそかに思っています。

 

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他にもいろいろありますが、長くなるのでここで切り上げます。

こうしても見ると後半3曲は韓国音楽ですね。今年いかに自分がKPOPに傾倒していたかがわかる。

「香水」の歌詞は俳句的であるという話

めっちゃ久々に更新しますこのブログ。

 

二回目の記事は、瑛人の「香水」についてです。この曲はみなさんご存じの通り、TikTokYoutubeなどがきっかけで人気に火が付き2020年最も売れたJPOPの一つになりました。

 

この曲といえば、あの「ドルチェ&ガッパーナの香水のせいだよ」というフレーズがとても有名です。このキャッチーなフレーズに、僕は初めて聴いた時からとても俳句的な要素を感じていました。

 

今回の記事は、この歌詞のどこが俳句的なのかを踏まえながらこの曲の好きなところについて述べたいと思います。

 

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まず、ドルガバのフレーズが出てくるサビの歌詞を見てみましょう。

 

別に君を求めてないけど 横にいられると思い出す

君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ」

 

 

一見、「ドルチェ&ガッパーナ」という名詞にばかり目が行ってしまいますが、実はその前の一文からのドルガバへの展開にこそ、この歌詞の非凡さがあります。


普通、「別に君を求めてないけど横にいられると思い出す」という一文を与えられたら、数多なる凡人ならばこの後に「どんな事を思い出したか」とか「どんな事を思ったか」ということを絶対に述べたくなると思います。 


しかし、この「香水」ではそういった自分の思いを一切述べてきません。代わりに、「ドルチェ&ガッバーナ」というモノを提示し、それに全てを託すのです。このモノへの託し方に、僕は俳句的な要素を感じました。

 

俳句は「客観写生」、つまり自分が今見ているモノをそのまま言葉で描写するという行為が基本になります。自分が感動した、心を動かされた場面があったら、その場面を丁寧に言葉で描写していくことにこそ、俳句の醍醐味があるのです。逆にいうと、自分が抱えている崇高な思考だとか感情を述べたところで、そこには新鮮な発見や面白さは見出しづらいのです。

 

「香水」の歌詞が新鮮なのは、曲のメインテーマとなるサビに、自分の思考や感情を一切述べずに、自分が今触れた「ドルチェ&ガッバーナの匂いにのみ焦点を絞ったところです。具体的な香水のメーカーを述べたところで、この元恋人がどんな人であるのかを想起させられるし(例えばこれがシャネルNo.9だったら、全然違った元恋人像が出てくる)、ドルガバの匂いを知っている人は歌詞を通して追体験させられます。

余談ですが、「ドルガバつけてる人って男性のイメージがあったから、この曲は同性愛者の恋愛だと思ってた」という書き込みを前に見たことがあります。こういった想像も、ドルガバという具体名によって生まれた曲の世界観の広がりの一つだと思います。 


このように、曲の世界観に素敵な広がりを与えてくれたのは、自分が今触れた香水の匂いを描写したからです。これをせずに自分がどんなことを思っているかとかをぐだぐだ述べてたら、つまらないJPOPで終わっていたと思います。

 

更にこの「香水」は歌詞をよく見ていくと、映像描写に内容をかなり費やしていることが分かります。まず、「夜中にいきなりさ いつ空いてるのってLINE」と冒頭からLINEの画面を開いている夜中の映像から始まります。

そのあとにも、海に行って写真を撮ったというあの日の追憶と、煙草を咥えだした今の彼女という「過去」と「現在」の映像を対比させながらストーリーを進めています。

ういった手法は、現在のJPOPではあまり主流ではないと言えるでしょう。近年のヒット曲を見ても「Pretender」「白日」「夜に駆ける」と、 どの曲の歌詞も複雑な心情の描写に内容をほぼ費やしています。(特にVOCALOIDシーン出身のJPOPでは、歌詞を心情描写に費やしMVで映像描写を補完するというスタイルがとられていることが多い気がします。「夜に駆ける」なんかは歌詞だけでは自殺の歌だとは分からないですが、映像と歌詞をリンクさせることで独特の世界観を広げていますね)

歌詞を作るときに映像描写を用いるのは昭和歌謡でよく使われた手法ですが、香水はそのリバイバル作品といっても良いかもしれません。

 

しかし、この「香水」は歌詞のすべてを映像描写に用いているわけではありません。

 「屑になった僕を 人を傷つけてまた泣かせても何も感じ取れなくてさ」という

フレーズをBメロで短く挟み込んだり、本当は君のことがまだ好きであるというこの歌詞の核心部分を曲のクライマックスで持ってくることで、感情の高ぶりと曲の盛り上がりをリンクさせ、聴き手に感動をもたらしています。

この作り方も、実にうまいなあと思います。

 

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 以上が、僕の「香水」の歌詞の凄いと思ったところです。

まとめると、

・「別に君を求めてないけど横にいられると思い出す」のフレーズの後に、自分の思いを一切を述べない潔さ

・「ドルチェ&ガッバーナ」というモノに思いを託すことで曲の世界観に広がりを与えており、このモノへの託し方が俳句的である

という感じです。

 

この「香水」、音楽的な面で見ても

・まずこの2020年にギター1本弾き語りで勝負するというスタイルが新鮮

・ギター弾き語りでシンプルなメロディーという昭和のフォークソングを思わせる懐かしさ

・しかし、伴奏は簡単なコードによる1フレーズを循環するのみという、近年の洋楽で非常によく見られる曲構成(少なくとも昭和フォークソングでは殆ど見られないと思う)

という昭和と令和のハイブリット要素があり、これだけヒットした今でも聴くたびに新鮮さを感じます。

そして、この曲を作り上げた瑛人さんの非凡さに毎回驚くのです。

Pretender / Official髭男dism

 自分が感動したものを詳細に語る場としてブログを開設しました。一回目はPretenderです。

https://youtu.be/TQ8WlA2GXbk

Pretender

Pretender

 2019年は、菅田将暉まちがいさがしKing Gnuの白日、米津玄師の馬と鹿、ヨルシカのだから僕は音楽を辞めたなどを筆頭にヒット曲が豊作な年でした。
 そんな2019年で最も売れたのがこのPretender。Youtube,ストリーミング配信共に、今年最も再生された曲として話題になりました。

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 今回語りたいのは、PretenderのBメロの歌詞です。この間Mステ見てて、このBメロがとても秀逸だなぁと思いました。
これがBメロの歌詞です(本当は載せちゃ駄目なんだろうけど...)


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もっと違う設定で もっと違う関係で
出会える世界線 選べたらよかった
もっと違う性格で もっと違う価値観で
愛を伝えられたらいいな そう願っても無駄だから
 ・・・・・・・・・・


 この歌詞、まず特徴的なのは「〜で、〜で」という語り方です。一般的に、助詞「で」を羅列した文はかなり散文的になります。例えば、「理想の恋人は、お金持ちで、ハーフみたいな顔立ちで、高学歴で、子供好きで....」のような文が典型的で、非常にだらだらと言葉を繋げている感じがしますね。
 一方、歌詞や詩は韻律があります。逆にいえば、韻律を全く意識していない歌詞には、リズムがなく散文的になります。どれだけ言っている内容が素晴らしくても、散文的な歌詞は、単に説法を述べただけのような、安っぽいシロモノです。
 このPretenderは失恋の曲です。失恋の未練とか君への憧れといった、複雑な感情を表現する為にあえて、「〜で、〜で」というダラダラとした言葉の型を用いたのだと思います。ただ、この型を用いると、先に述べた通り散文的になってしまいます。
しかし、Pretenderは、「〜で、〜で」の型を用いつつ、韻律を失わせない工夫を細部に施しているのです。ここがこのBメロの凄いトコロですね。


 まず一つ目の工夫は脚韻です。フレーズの最後に来る「設定で」「関係で」「世界線」は、それぞれ「で(DE)」と「世界線のSEN」の「E」の音で韻を踏んでいます。これをやることで、「世界線」で韻を効かせる為に、あえて「〜で、〜で」と言葉を畳み掛けたのだと聴いた瞬間に理解できます。更に、「もっと違う設定で、もっと違う関係で」と展開していた歌詞が、この「世界線」という名詞で受け止められるため、ここに言葉の切れが生まれます。

もしここの歌詞が、
「もっと違う設定で
もっと違う関係で
君に出会える未来を 選べたら良かった」

みたいなものだったら、助詞が「で」「で」「を」と続くため、一文に切れが生まれずにダラダラとしまりのない歌詞になります。そうはさせない役割を、「世界線」という単語が実はしているのです。
 

 もう一つの工夫は、「選べたら良かった」のあとに出てきます。このフレーズのあと、再び「〜で、〜で」の型が出現します。同じ歌詞構成をBメロは2回繰り返すわけですが、この歌詞を対応させると韻の工夫がはっきりと分かります。
 
一回目→もっと違う設定で
    もっと違うSetteiで
  
    もっと違う関係で
    もっと違うKankeiで

二回目→もっと違う性格で
    もっと違うSeikakuで

    もっと違う価値観で
    もっと違うKatikanで

 気づきましたか?「設定」と「性格」の「せ」、「関係」と「価値観」の「か」と、言葉の最初の音が揃えられているのです。これによってどのような効果が出るでしょうか。
 「出会えたら良かった」のあと、再び「もっと違う」というフレーズが出てくるので、「もう一度同じ歌詞が繰り返される」と聴き手は無意識に思います。そして、「せ」の音を聴いた瞬間に、聴き手は「(もっと違う)設定」を思い出します。しかし、実際に歌われるのは「性格」という新しいワードです。ここに小さな裏切りがあり、聴き手はハッとします。そして、無意識に思い出した「もっと違う設定」と、新たに提示された「もっと違う性格」の2つのワードを聴き手は抱えながら、歌詞が展開していきます。同様のことが「関係」と「価値観」にもいえます。

 このBメロは、「〜で」と「世界線」という脚韻、「設定/性格」「関係/価値観」という頭韻を用いることで、何度も同じ言葉をリフレインさせています。このリフレインによって、聴き手は「もっと違う設定」「もっと違う関係」「もっと違う性格」「もっと違う価値観」という様々な「もしも話」を想像します。そうしてそのもしも話を空想させた後に、「そう願っても無駄だから」と、今まで聴き手に想像させた様々な「もしも話」を全て否定させて、サビへと向かっていくのです。サビでは一気に音があがり、
「グッバイ 君の運命の人は僕じゃない」
というフレーズを叫びのように歌い上げます。
この叫びがよりリアルに感じるのは、こうしたBメロの細部に渡る工夫があってからこそなのだと思います。

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この曲は、元々歌詞の内容自体が素晴らしく
Twitterでは「単に失恋した人だけでなく、アイドルやアニメキャラに恋するオタク、LGBTの片思いなど様々な状況の人に当てはまる歌詞だと思う」と話題になってましたね。色んな人の心情に寄り添ってくれる、多様性のある歌詞がこれからのトレンドなのかもしれません。