「香水」の歌詞は俳句的であるという話
めっちゃ久々に更新しますこのブログ。
二回目の記事は、瑛人の「香水」についてです。この曲はみなさんご存じの通り、TikTokやYoutubeなどがきっかけで人気に火が付き2020年最も売れたJPOPの一つになりました。
この曲といえば、あの「ドルチェ&ガッパーナの香水のせいだよ」というフレーズがとても有名です。このキャッチーなフレーズに、僕は初めて聴いた時からとても俳句的な要素を感じていました。
今回の記事は、この歌詞のどこが俳句的なのかを踏まえながらこの曲の好きなところについて述べたいと思います。
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まず、ドルガバのフレーズが出てくるサビの歌詞を見てみましょう。
「別に君を求めてないけど 横にいられると思い出す
君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ」
一見、「ドルチェ&ガッパーナ」という名詞にばかり目が行ってしまいますが、実はその前の一文からのドルガバへの展開にこそ、この歌詞の非凡さがあります。
普通、「別に君を求めてないけど横にいられると思い出す」という一文を与えられたら、数多なる凡人ならばこの後に「どんな事を思い出したか」とか「どんな事を思ったか」ということを絶対に述べたくなると思います。
しかし、この「香水」ではそういった自分の思いを一切述べてきません。代わりに、「ドルチェ&ガッバーナ」というモノを提示し、それに全てを託すのです。このモノへの託し方に、僕は俳句的な要素を感じました。
俳句は「客観写生」、つまり自分が今見ているモノをそのまま言葉で描写するという行為が基本になります。自分が感動した、心を動かされた場面があったら、その場面を丁寧に言葉で描写していくことにこそ、俳句の醍醐味があるのです。逆にいうと、自分が抱えている崇高な思考だとか感情を述べたところで、そこには新鮮な発見や面白さは見出しづらいのです。
「香水」の歌詞が新鮮なのは、曲のメインテーマとなるサビに、自分の思考や感情を一切述べずに、自分が今触れた「ドルチェ&ガッバーナ」の匂いにのみ焦点を絞ったところです。具体的な香水のメーカーを述べたところで、この元恋人がどんな人であるのかを想起させられるし(例えばこれがシャネルNo.9だったら、全然違った元恋人像が出てくる)、ドルガバの匂いを知っている人は歌詞を通して追体験させられます。
余談ですが、「ドルガバつけてる人って男性のイメージがあったから、この曲は同性愛者の恋愛だと思ってた」という書き込みを前に見たことがあります。こういった想像も、ドルガバという具体名によって生まれた曲の世界観の広がりの一つだと思います。
このように、曲の世界観に素敵な広がりを与えてくれたのは、自分が今触れた香水の匂いを描写したからです。これをせずに自分がどんなことを思っているかとかをぐだぐだ述べてたら、つまらないJPOPで終わっていたと思います。
更にこの「香水」は歌詞をよく見ていくと、映像描写に内容をかなり費やしていることが分かります。まず、「夜中にいきなりさ いつ空いてるのってLINE」と冒頭からLINEの画面を開いている夜中の映像から始まります。
そのあとにも、海に行って写真を撮ったというあの日の追憶と、煙草を咥えだした今の彼女という「過去」と「現在」の映像を対比させながらストーリーを進めています。
こういった手法は、現在のJPOPではあまり主流ではないと言えるでしょう。近年のヒット曲を見ても「Pretender」「白日」「夜に駆ける」と、 どの曲の歌詞も複雑な心情の描写に内容をほぼ費やしています。(特にVOCALOIDシーン出身のJPOPでは、歌詞を心情描写に費やしMVで映像描写を補完するというスタイルがとられていることが多い気がします。「夜に駆ける」なんかは歌詞だけでは自殺の歌だとは分からないですが、映像と歌詞をリンクさせることで独特の世界観を広げていますね)
歌詞を作るときに映像描写を用いるのは昭和歌謡でよく使われた手法ですが、香水はそのリバイバル作品といっても良いかもしれません。
しかし、この「香水」は歌詞のすべてを映像描写に用いているわけではありません。
「屑になった僕を 人を傷つけてまた泣かせても何も感じ取れなくてさ」という
フレーズをBメロで短く挟み込んだり、本当は君のことがまだ好きであるというこの歌詞の核心部分を曲のクライマックスで持ってくることで、感情の高ぶりと曲の盛り上がりをリンクさせ、聴き手に感動をもたらしています。
この作り方も、実にうまいなあと思います。
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以上が、僕の「香水」の歌詞の凄いと思ったところです。
まとめると、
・「別に君を求めてないけど横にいられると思い出す」のフレーズの後に、自分の思いを一切を述べない潔さ
・「ドルチェ&ガッバーナ」というモノに思いを託すことで曲の世界観に広がりを与えており、このモノへの託し方が俳句的である
という感じです。
この「香水」、音楽的な面で見ても
・まずこの2020年にギター1本弾き語りで勝負するというスタイルが新鮮
・ギター弾き語りでシンプルなメロディーという昭和のフォークソングを思わせる懐かしさ
・しかし、伴奏は簡単なコードによる1フレーズを循環するのみという、近年の洋楽で非常によく見られる曲構成(少なくとも昭和フォークソングでは殆ど見られないと思う)
という昭和と令和のハイブリット要素があり、これだけヒットした今でも聴くたびに新鮮さを感じます。
そして、この曲を作り上げた瑛人さんの非凡さに毎回驚くのです。