Pretender / Official髭男dism

 自分が感動したものを詳細に語る場としてブログを開設しました。一回目はPretenderです。

https://youtu.be/TQ8WlA2GXbk

Pretender

Pretender

 2019年は、菅田将暉まちがいさがしKing Gnuの白日、米津玄師の馬と鹿、ヨルシカのだから僕は音楽を辞めたなどを筆頭にヒット曲が豊作な年でした。
 そんな2019年で最も売れたのがこのPretender。Youtube,ストリーミング配信共に、今年最も再生された曲として話題になりました。

___________

 今回語りたいのは、PretenderのBメロの歌詞です。この間Mステ見てて、このBメロがとても秀逸だなぁと思いました。
これがBメロの歌詞です(本当は載せちゃ駄目なんだろうけど...)


 ・・・・・・・・・・
もっと違う設定で もっと違う関係で
出会える世界線 選べたらよかった
もっと違う性格で もっと違う価値観で
愛を伝えられたらいいな そう願っても無駄だから
 ・・・・・・・・・・


 この歌詞、まず特徴的なのは「〜で、〜で」という語り方です。一般的に、助詞「で」を羅列した文はかなり散文的になります。例えば、「理想の恋人は、お金持ちで、ハーフみたいな顔立ちで、高学歴で、子供好きで....」のような文が典型的で、非常にだらだらと言葉を繋げている感じがしますね。
 一方、歌詞や詩は韻律があります。逆にいえば、韻律を全く意識していない歌詞には、リズムがなく散文的になります。どれだけ言っている内容が素晴らしくても、散文的な歌詞は、単に説法を述べただけのような、安っぽいシロモノです。
 このPretenderは失恋の曲です。失恋の未練とか君への憧れといった、複雑な感情を表現する為にあえて、「〜で、〜で」というダラダラとした言葉の型を用いたのだと思います。ただ、この型を用いると、先に述べた通り散文的になってしまいます。
しかし、Pretenderは、「〜で、〜で」の型を用いつつ、韻律を失わせない工夫を細部に施しているのです。ここがこのBメロの凄いトコロですね。


 まず一つ目の工夫は脚韻です。フレーズの最後に来る「設定で」「関係で」「世界線」は、それぞれ「で(DE)」と「世界線のSEN」の「E」の音で韻を踏んでいます。これをやることで、「世界線」で韻を効かせる為に、あえて「〜で、〜で」と言葉を畳み掛けたのだと聴いた瞬間に理解できます。更に、「もっと違う設定で、もっと違う関係で」と展開していた歌詞が、この「世界線」という名詞で受け止められるため、ここに言葉の切れが生まれます。

もしここの歌詞が、
「もっと違う設定で
もっと違う関係で
君に出会える未来を 選べたら良かった」

みたいなものだったら、助詞が「で」「で」「を」と続くため、一文に切れが生まれずにダラダラとしまりのない歌詞になります。そうはさせない役割を、「世界線」という単語が実はしているのです。
 

 もう一つの工夫は、「選べたら良かった」のあとに出てきます。このフレーズのあと、再び「〜で、〜で」の型が出現します。同じ歌詞構成をBメロは2回繰り返すわけですが、この歌詞を対応させると韻の工夫がはっきりと分かります。
 
一回目→もっと違う設定で
    もっと違うSetteiで
  
    もっと違う関係で
    もっと違うKankeiで

二回目→もっと違う性格で
    もっと違うSeikakuで

    もっと違う価値観で
    もっと違うKatikanで

 気づきましたか?「設定」と「性格」の「せ」、「関係」と「価値観」の「か」と、言葉の最初の音が揃えられているのです。これによってどのような効果が出るでしょうか。
 「出会えたら良かった」のあと、再び「もっと違う」というフレーズが出てくるので、「もう一度同じ歌詞が繰り返される」と聴き手は無意識に思います。そして、「せ」の音を聴いた瞬間に、聴き手は「(もっと違う)設定」を思い出します。しかし、実際に歌われるのは「性格」という新しいワードです。ここに小さな裏切りがあり、聴き手はハッとします。そして、無意識に思い出した「もっと違う設定」と、新たに提示された「もっと違う性格」の2つのワードを聴き手は抱えながら、歌詞が展開していきます。同様のことが「関係」と「価値観」にもいえます。

 このBメロは、「〜で」と「世界線」という脚韻、「設定/性格」「関係/価値観」という頭韻を用いることで、何度も同じ言葉をリフレインさせています。このリフレインによって、聴き手は「もっと違う設定」「もっと違う関係」「もっと違う性格」「もっと違う価値観」という様々な「もしも話」を想像します。そうしてそのもしも話を空想させた後に、「そう願っても無駄だから」と、今まで聴き手に想像させた様々な「もしも話」を全て否定させて、サビへと向かっていくのです。サビでは一気に音があがり、
「グッバイ 君の運命の人は僕じゃない」
というフレーズを叫びのように歌い上げます。
この叫びがよりリアルに感じるのは、こうしたBメロの細部に渡る工夫があってからこそなのだと思います。

___________

この曲は、元々歌詞の内容自体が素晴らしく
Twitterでは「単に失恋した人だけでなく、アイドルやアニメキャラに恋するオタク、LGBTの片思いなど様々な状況の人に当てはまる歌詞だと思う」と話題になってましたね。色んな人の心情に寄り添ってくれる、多様性のある歌詞がこれからのトレンドなのかもしれません。