2021上半期よく聴いた曲

今年も早半年が終わるので、よく聴いた曲を振り返ります。

 

01.幽栖 - 悒うつぼ(2020)

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今年最も聴いた曲の一つです。悒うつぼはYoutube発のシンガーソングライターです。

逆再生を駆使したイントロのコードに、不思議な気持ちにさせられます。もう忘れてしまっていた幼少期の頃の感覚が、呼び起こされるような感じがします。

自分たちが生きていく中で、絶えず自分自身の考え方やアイデンティティ、好むものや価値観は変わっていきます。その中でいつの間にか見失ってしまった、自分の中にある本質的な何かに、この曲は優しくスポットライトを当ててくれます。特に、サビに出てくる「置いてかないでよ頭の隅の国の誰かを」というフレーズが、そうさせてくれるのだと思います。

また、この曲には沢山の環境音が使われており、それらを再構築することで独特のリズムを生み出しています。こういった手法は特にエレクトロニカで用いられますが、このリズムの作り方が抜群に上手いです。それも含めて、作詞・作曲・編曲・歌唱のすべてを一人で行っている悒うつぼは、間違いなく次世代の音楽を牽引する天才だと思います。

 

02.ハッピーになれよ - 瑛人(2021)

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今年の元日に発売された1stアルバム「すっからかん」のリード曲。「香水」が大ブームを巻き起こした瑛人ですが、香水も含めてこのミュージシャンの一番の魅力は、圧倒的なリアルを見事に音楽の詩に変えてしまうところだと思います。

この曲は、「みんなハッピーになれよ」という明るいフレーズを繰り返すサビや、緩いレゲエ調のリズムなどから能天気なお気楽ソングに一見聴こえますが、イントロの歌いだしから一気にそのイメージが覆されます。瑛人自身の半生を歌ったこの歌詞はかなり重々しいものですが、それをあっけらかんを歌うところにリアルな生活感があります。

そして何といってもこの曲の一番すごいところは、サビの終わりのフレーズ「もういいべ」です。今までのすべての辛かったことや悲しかったことに対する、諦めとも決別とも肯定とも解釈できるこのフレーズこそ、瑛人自身の個性が最も現れた言葉であり、また多くの人が共感する部分だと思います。

瑛人はこの間新曲「掃除」をリリースしたばかりですが、この楽曲も歌詞の展開が非常に巧みです。この曲には、「ハウスダスト」、「生ゴミ」、「赤カビ」といったフレーズが出てきますが、こういった普通歌詞には起こさない言葉を歌詞に入れ込むという手法には、宇多田ヒカルを彷彿させるものがあります。

 

03.春泥棒 - ヨルシカ(2021)

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「ウミユリ海底譚」を筆頭にボカロPとして大ヒットを起こしたn-bunaと、ボーカルsuisによる、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの人気バンド「ヨルシカ」。この曲は今年を代表するヒット曲の一つでもあります。

 

去年のヒット曲「花に亡霊」に続き、春の終わりをテーマにした楽曲です。春の終わりには、儚さだとか切なさといったイメージを多分に含んでいますが、実際には気温が大分高まり日照時間も伸び、チューリップや牡丹といった華やかな花が咲き始め、桜が葉桜へ変わり新緑が芽吹く、生命力があふれる時期でもあります。そんな明るく溌剌した時期だからこそ、春愁といった言いようのない倦怠感が漂うこともあります。

そんな春の終わりという時期が抱える、切なさ、溌剌さ、明るさ、倦怠感といった複雑な感情をどう音で表すのかというのが非常に難しいところですが、このイントロはそれを見事に表現していると思います。

 

04.あとのまつり - ヤマモトガク / Peg(2020)

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「あわよくば君の眷属になりたいな」などでボカロリスナーから注目を集めている、Pegの去年のボカロヒット曲です。音頭のようなリズムが特徴である、夏の終わりを彷彿させる情緒的な楽曲です。

世の中には元々恵まれた人と、そうでない人が居ますが、この楽曲はそうでない人から恵まれた人へ送る強烈な現代風刺となっています。特に2番Aメロのフレーズ、

「弛まぬ努力のお陰かどうにかここまでやって来れました!

 そりゃアンタはお膳立てされてんの 嫌味にしか聞こえないわ」

は現代の様々な差別問題、格差問題から生まれる怒りを見事に表していると思います。MVでは日本屈指の風俗街である、大阪の飛田新地を舞台にした女性が映っていますが、この楽曲はそういった水商売の人に限らず多くの人が共感する、現代の普遍的なメッセージソングであると思います。

 

05.ただ選択があった - フロクロ(2021)

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今年最も衝撃を受けた曲の一つでした。

斬新な方法で毎回曲を生み出すフロクロの、重音テトによるUTAU曲です。

この楽曲は、予め用意されたコードとメロディーを絶えず選択し続けるという手法で作られています(動画を見てもらった方が分かりやすいです)。

手法の斬新さだけに留まらず、この楽曲には、「選択し続ける」という行為の積み重ねこそが人生であるというメッセージ性が込められていると思います。アウトロは、物凄く終止感のないメロディーとコードで突然終わってしますが、この何の前触れもなく終わるところにも人生がどういうものなのかを暗に表している気がします。

テトの無機質な声が生み出す独特な空気感も含めて、ぜひボカロなどのソフトウェアシンガーを普段聴かない人にも、ぜひ聴いてほしい1曲です。

 

06.恋のうた - Yunomi (2020)

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アニメ「トニカクカワイイ」のOP曲。

「インドア系ならトラックメイカー」がTiktokが大ヒットした、今一番アツいエレクトロポップを作るYunomiの楽曲です。

Future Bassに和楽器のエッセンスを加えた情緒的なサウンドは、まさにYunomiにしか生み出せない唯一無二のものです。「新しい風を春は運んでくれるだろう」「花火が消えたら星を夜通し数えよう」といった四季を感じさせるフレーズがありますが、これらの言葉の空気感を、電子音でうまく表現されているところが本当に巧みです。また、歌詞を通してみると、この曲の大きなテーマとして時空を超えた壮大な何かがあるようです(ここらへんはアニメ本編を見ないと詳しく理解できないのかもしれません)。四季を彷彿させるワードを一挙に畳みかけてくるのは、そういった季節だとか時間を超えた非現実的なものを表現したいからなのかもしれません。

この曲の音楽ジャンルのベースはFuture Bass(及びKawaii Future Bass)ですが、このジャンルの特徴としてBPM100を下回る遅めのテンポと、本来のゆったりとしたリズムと倍速でとる非常に速いリズム、両方を駆使して曲にメリハリをつけるというリズムの多様性が挙げられます。この曲でもまさにそれが行われており、前半は8分音符主体のゆったりとしたメロディーですが、後半で一気にリズムが16分主体へと変わり畳みかけていきます。この畳みかけていく歌詞が非常に素晴らしく、聴いていて気持ちの良い韻であり、その内容も情緒的なサウンドを一層彩っています。

歌詞、メロディー、サウンドどれをとっても唯一無二の音楽をつくるYunomiは、間違いなくこれからの日本の音楽を変えていく重要人物だと思います。

 

07.キュートなカノジョ - syudou.feat Kafu(2021)

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ボーカリスト「花譜」の歌声をサンプリングした音声合成ソフト、「Kafu」のデモソングです。初音ミクなどと同じくソフトウェアシンガーですが、Cevio AIというVOCALOIDとは異なるソフトウェアであり、人口知能を用いているのが特徴です。Kafuは他のソフトウェアシンガーと比較してもかなり人間らしい歌声なのが大きな特長ですが、この曲では少し風変りな調声がなされています。

作曲者は「うっせぇわ」で一気に名を知らしめたSyudou。現役ボカロPであり、2019年の「ビターチョコデコレーション」の大ヒットにより、既にボカロシーンでは誰もが知る存在でした。

「浮気」がテーマであるこの曲は、Trapの影響を受けた現代的なサウンドと、昭和歌謡を思わせる古臭いメロディーの掛け合わせが鮮烈です。一見合わない気がするのに、絶妙にマッチしています。

この曲は、今年のボカロシーンの中で最もヒットしている曲の一つです。また邦楽シーン全体で見ても、米津玄師、ヨルシカ、YOASOBIなどのボカロ出身ミュージシャンの大ブームや、「グッバイ宣言」「シル・ヴ・プレジデント」などがTiktok経由で2021年の上半期を代表する大ヒットを記録したりと、ボカロがかつてない勢いで盛り上がっています。邦楽の最先端である今のボカロシーンを象徴する曲として、ぜひ聴いてほしい1曲です。

 

08.ポリゴンウェイヴ - Perfume(2021)

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近年のPerfume含め、最近のエレクトロミュージックはDubstep、Future Bass、Raggaeton、Trapなどの流行を経て、遅めのテンポと、その倍速でとるスピーディーなリズムを両立させたものがトレンドになっています。しかし、今作ではシンプルな4つ打ちの楽曲に回帰しています。またBPMも128と、エレクトロミュージック(そして中田ヤスタカ楽曲)を象徴するテンポです。

どことなくDaft Punkを思わせるイントロや、ノコギリ波のベース、歌い出しのキーボードのコード感、一昔前の中田ヤスタカを思わせる要素が多くどことなく懐かしく感じます。コードがPerfumeの代表曲「ポリリズム」と同じであるのもその要因の一つだと思います。

しかし、3分に満たない短い演奏時間、AメロBメロサビという従来のJPOPとは異なる構成には、今の流行っぽさを感じます。近年のPerfumeは「ナナナナナイロ」「Time Warp」など新たなハイライトとなる名曲を連発しているので、これからの新曲が本当に楽しみです。

 

09.El Horizonte - 西田フレンズ(2021)

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ボリビア、ペルー、アルゼンチンなどの中南米音楽フォルクローレ」を演奏するバンド、西田フレンズの1stアルバム収録曲。この楽曲では、ペルーの音楽形式である「ワイニョ」が用いられています。ワイニョは祭りの時などに踊られる、訛りのある2拍子のリズムが特徴です。

この曲は何といってもイントロから鳴り続けるギターのフレーズが印象的です。夜明けか日没の空を思わせる、切なくも悠久な感じがたまらなく素晴らしいです。ケーナの笛は、奇をてらっていないシンプルなメロディーなのに、とてもキャッチーです。フレーズ終わりの盛り上がりが特に印象的なものになってますが、そこに至るまでのメロディーの起伏が巧みです。

このアルバムには同じ作曲者の曲である「Cuando Solpa el Viento」と「En una Noche de Luna Llena」も収録されていますが、それぞれ長調のカルナバルとチュントゥンキと、同じフォルクローレでありながら異なる音楽形式の楽曲です。フォルクローレは、まだ世界的には認知されていない音楽ジャンルではありますが、優れた音楽の宝庫であると強く感じています。そこにいち早く目をつけているバンドが今後大衆的になっていったら本当に面白いなと思います。

 

10.One Last Kiss - 宇多田ヒカル(2021)

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映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の主題歌として、映画と共に今年を代表するヒット曲です。

2004年のアルバム「ULTRA BLUE」以降の宇多田ヒカルの楽曲は、作詞作曲だけでなく編曲もほぼ彼女一人が担当しており、電子音をベースに曲が構成されているのが大きな特徴です。今回の楽曲もシンセサイザーがメインですが、非常に内向的かつ落ち着いたサウンドです。曇り空のなか温い風が吹いてきたようなイントロは、どことなく碇シンジの人物が持つ倦怠感とか憂鬱感、諦めといったイメージとシンクロする部分があります(とか言っときながらエヴァ見たことないんですが...)。

宇多田ヒカルは唯一無二の歌声や歌詞の斬新さなどが大きな魅力の一つですが、心の微妙な機微を電子音で表現するのがとても上手い方だと思います。今回の楽曲はそんな彼女の近年の作品の集大成でありつつ、次のステップへと続く最初の楽曲であるような気がしました(この次に出されたPINK BLOODがまさにそういう曲でしたね)。

また、この曲のEPに収録された「Beautiful World(Da Capo Version)」も物凄く良かったです。

 

11.踊 - Ado(2021)

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昨年の「うっせぇわ」のデビューの大ヒットにより一躍スターとなったAdoの、今年のヒット曲です。作曲者は「ヒビカセ」や「劣等上等」などで有名なボカロP、Giga。また作詞者はボカロ界の大御所、DECO*27です。

金管楽器の音を駆使したザ・クラブチューンであり、曲の展開の豊富さや、喋り言葉のようなメロディーからはどことなくKPOPの要素も感じます。

とにかくクラブミュージックに特化したサウンドと、歌詞のグルーヴの気持ち良さがたまらない楽曲です。コロナさえなければ日本中のクラブなどでガンガンかけられていたと思いますが、コロナが無かったらこういうインターネット出身のミュージシャンに目が向けられることもなかったのかなと思ってしまいます。

 

12.FIRST - EVERGLOW(2021)

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2019年にデビューしたKPOPグループ「EVERGLOW」の最新曲です。

このグループの楽曲は、メリハリをつけるために、1曲の中で非常に多様なリズムを駆使するのが大きな特徴です。どの曲も非常に格好良いですが、そのリズムを表現する為にはおそらく相当な歌唱テクニックやダンス力が必要です。それをこなせるこのグループはKPOP髄一のパフォーマンスグループだと思います。

この楽曲は、イントロから登場するリフがメインフレーズとして何回も登場します。イロンがこのメロディーをそのまま歌う部分もありますね。曲をよりキャッチーなものにするために、印象的なメインフレーズを作って、それを繰り返す提示するという手法はKPOPで頻繁に見られます。T-ARAのSexy Loveなどに代表されるシンサドンホレンイの楽曲や、EXOのGrowlなどがその代表例です。

しかし、この楽曲ではメインフレーズがあまりメインとして主張してきません。歌い出しの前やサビ、1番の終わりといった曲の起承転結にかかわる部分には出てきますが、それ以上にシヒョンの歌うメロディーの方がパッと聴いて印象的です。こういった作り方は今までのKPOPにはあまり見られなかった傾向なので、結構新鮮でした。

EVERGLOWは他のKPOPとは異なるオリジナリティ溢れる音楽を作り続けているので、今後も楽しみなグループです。

 

13.Load Of The Dance - Clark (2001)

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Clarkはイギリス出身のエレクトロニカのミュージシャンであり、一時期はポストAphex Twinと呼ばれたIDMの第一人者です。

彼の音楽は中学生の頃から大好きで、この曲も昔から好きだったんですが今年に入ってより一層聴くことが多くなりました。本当にずば抜けて良い曲なんですよね。

メインとなるフレーズは、2音だけで構成された極めてシンプルなメロディーなのに、どことなく懐かしかったりぬくもりがあったり切なかったり、色んな感情を想起させられるサウンドです。様々な電子音を駆使して展開されるリズムも非常に格好良いですし、どこかイギリスの寒い朝追体験させられる感じがします。海外行ったことないけど。

 

14.1/1 - Brian Eno(1978)

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去年今年合わせて、ダントツでよく聴いている音楽です。

ブライアンイーノは、ロックバンド「ロキシーミュージック」の元メンバー。ソロとして発表されたこの曲、およびアルバムは、「空港の為の音楽」という題で、空港で流すBGMとして、飛行機を待つ人々の落ち着かない感じなどを緩和させる目的で作られたそうです。彼の音楽以降、聴くことを目的としない聞き流す音楽、更には空間に調和する為の音楽をテーマにした「アンビエント」という音楽ジャンルが生まれます。

この曲は、アンビエントの1番の代表作であり最高傑作です。本当にどんな時でも心情や空間に調和して聴けて、なおかつ聴いていて退屈しないという唯一無二の楽曲です。僕は最近アンビエントに凄い興味があって、音楽の最終的に行き着く先ってこういうものじゃないのかなって思い始めてるんですが、アンビエントにおいてこの曲以上のものはもう生まれないと感じてるので、自分で新しく傑作を作ろうとなると相当難しいような気がします。


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他にもいろいろあった気がしますが、長くなるのでこのへんで辞めます。ルワンの「カルティカ」とか柊キライの「オートファジー」とか、Ayaseの「シネマ」とかも凄い聴きましたね。

去年はKPOPをよく聴いてましたが、今年はボカロが多いですね。今年はかなりボカロシーン傑作が多い気がしました。